「ジン(Gin)」は大麦、ライ麦、トウモロコシなどを原料とした蒸留酒に、ジュニパーベリーの香りをつけたものが一般的にジンと呼ばれます。
ジュニパーベリーは日本語では西洋杜松と書いて「せいようねず」。ヒノキ科ビャクシン属の針葉樹で、北半球の寒い地域全域に広く分布。2-3mmの雄球花が飛ばす黄色い花粉がジンの香りの元になります。
花後に小さな球形の果実となり、緑色から紫色、そして黒に変化します。この果実が鳥に食べられ分散して繁殖するわけですね。
実はアロマの原料、ハーブティーや肉料理の臭み消しとしてスパイス、ドレッシングの風味づけに使われ、葉や枝は肉をスモークするときに使われます。
また、ジンのボタニカルとして実だけでなく葉も使うクラフトジンの蒸留所も出てきました。
古代エジプトからジュニパーベリーの薬効は知られていましたが、蒸留酒としては11世紀頃にイタリアはサレルノ地方の修道士がジュニパーベリーなどのボタニカルを使って蒸留酒を作ったのが発祥の通説です。
お酒としてポピュラーにしたのは、のちに登場するひとりの博士。ドイツ生まれでオランダで活躍した医師、解剖学者にライデン大学医学教授のフランシスクス・シルヴィウス(Franciscus Sylvius)博士がいます。
化学実験室を設けて脳の解剖学研究を行った人で、今日でも脳の外側溝(シルヴィウス溝)や中脳水道(シルビウス孔)と名前がつけられている、実証医学のパイオニアです。
1660年、シルヴィウス博士は植民地でのマラリアやチフスといった熱病の治療対策のため、利尿効果があるとされていたジュニパー・ベリー(Juniper berry)をアルコールに浸漬して蒸溜、利尿剤をつくります。
この薬はジュニパー・ベリーのフランス語読みである「ジュニエーヴル(Genievre)」の名前で薬局で売りだされました。
オランダ語の「イエネーフェル」とも訳され、その効用、爽やかな香り、値段の安さから薬酒の効用にとどまらず、オランダ中で大人気となり、ポピュラーなお酒となっていきます。
1689年になり、オランダからイギリス国王となったウイリアムⅢ世が、「イエネーフェル」をイギリスにも普及させるため、外国からの蒸留酒の輸入を禁止。
ジン奨励策をとったため、イギリス全土へ広がっていきました。呼び名が「ジン」になったのもこの頃と言われています。
当初、ポットスチル(単式蒸溜器)でつくられていたために雑味が多かったジンですが、19世紀半ばには連続式蒸留器が発明され、高品質のジンが蒸留されるとドライ・ジンの時代になっていくんですね。