Barでの出会いとバーテンダー
Barでの出会いはバーテンダーにとってもお客様にとっても楽しみのひとつ。私がかつてバーテンダーをやっていたときもそうでした。
私が勤める前から何年も通われている常連さん、私がカウンターを任されてから親しくなってよく来店されるようになった方、数回しか合わなかったけれど記憶に残っている方など、いまでも顔や雰囲気が目に浮かびます。
なかにはバーに1人で来られる方もいらっしゃいました。お酒を飲むスタイルはさまざまで、浮かないような顔をしてバーテンダーにも話しかけてほしくないという空気を出している男性もいました。
バーテンダーと会話する間もなく、30分で帰る方も
不機嫌なのかなと思ってそっとしておくと、さっさと飲んでしまって30分で帰るんですね。でも、また一週間ほどしてやってくるという不思議な方(笑)。
いまにして思えば、ゆっくり飲む時間がなかったのかも。仕事の緊張感も完全にとれないままに、席を立っていたのかもしれません。
接客でかける言葉に迷うとき
飲みに来たけれど、とりあえずほおっておいてほしいという方は多かったですね。接客を求める方は目線がバーテンダーと合うことが多いですが、黙って飲みたい方は目線が正面か、斜め下で固定されています。
で、バーテンダーが背中を向けているときだけ、バーテンダーを寂しそうに見ます(笑)。
飲んでいるうちに、リラックスしてきたのでちょっと接客してほしいという方は、なんとなくその雰囲気を出しはじめます。
でも、そういうときこそ、話しかけるひとことがとても難しかったのを覚えています。とくに初対面の方なら、今で言うところの「個人情報」をいちいち聞かれたくないですよね。
「どこから来た?」「今日は仕事の帰り?」「今日はお休み?」みたいなことです。
そんな日常を忘れたくて来ているのに…。仕事の疲れを癒やしたくて来ているのに…。私ならこの手の質問は面倒くさいので、聞きませんでした。
話すだけが接客ではない
こんなときは、グラスが空になるのを待って「おつくりしますか?」だけ。相手の方が了承すれば、ふだんよりも時間をかけてゆっくりつくります。
ウイスキーのボトルキープをしている方なら、スローペースでボトルをとり、水割りをつくるというように。
水割りは素早く造らないといけませんが、それ以外に時間をかけました。なぜかというと、バーテンダーの所作もお客様にとっては空間の一部なんだなとあるときに感じたからでした。
相手の方はバーテンダーの動作を見ていますから、癒やしを求めている人はゆっくりした動作に安心することがあります。カクテルを頼まれる場合はその逆だったりする場合もあります。
それらの過程のなかで、相手の方が自然につぶやいたひとことに反応すればいいし、無言ならそれはそれ。「ありがとう」の目礼だけでじゅうぶんでした。
Barでの出会いがなければ、ただの見知らぬ東京の通行人同士。気持ちが通じ会える人と同じ空間を共有できたことは、豊かな時間だったと思います。