クライヌリッシュ蒸留所のシングルモルトの評価とは
「クライヌリッシュ(Clynelish)」はスコットランドの北ハイランド・ブローラにあるクライヌリッシュ蒸留所が造っているシングルモルトウイスキーです。
クラインリシュは19世紀後半には当時から有名だったザ・グレンリヴェットと肩を並べる銘酒と言われていたほどで、人気ゆえに生産が追いつかないこともあったとか。
あまり一般的に知られていないのは、MHDモエヘネシーディアジオ社の傘下といこともあり、同蒸留所で造られているウイスキー原酒の約95%がブレンデッドウイスキー用に使われてしまうためなんですね。
あのジョニーウォーカーを構成する主要原酒としても知られるほか、ボトラーズ(瓶詰め業者)のリリースも多く、シングルモルトとなると希少性が高くなります。
クライヌリッシュの評価でよく言われるのが、麦芽のコクのある甘みとワクシーなニュアンスが特徴的という言葉です。
ワクシーとは「蝋を連想させる香り」という意味ですが、この場合には蜜蝋を思わせる香りだったり、樹液の香りだったりという意味で使われているようですね。
ところが、嗅覚は人それぞれというのが面白いところで、この香りを「カブトムシ臭」「カナブン臭」とたとえる人もいます。自分の鼻が植物派なのか、昆虫派なのか、自分で体験してみる楽しみもあります(笑)。
ちなみに、この香りは「蒸留液を一時的に貯めておくレシーバータンク」が原因だとか、「ポットスチルのラインアーム部分を洗浄していないから」などと言われています。
つまり、底に溜まっている沈殿物がその風味を造り出している?というわけで、ちょっと気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、銘酒中の銘酒と言われるシングルモルトであることはたしかです。
ラベルの山猫の由来と歴史背景
同蒸留所が創業したのは1819年。山猫が描かれたボトルラベルの下のほうに年数も記載されています。当時の第2代スタッフォード伯爵、後のサザーランド公爵によって設立されました。
イングランドとスコットランドに莫大な土地を所有する英国有数の大地主だった彼は、スコットランドの所領の開発を推進しました。
1780年代から19世紀前半まで、スコットランドのハイランド地方では「ハイランドクリアランス」と呼ばれる、地域住民が大規模に強制移住された時期。
強制移住は産業革命による人口増加、農業の不振、飢饉、羊の需要の拡大のために地主達が借地人を追い出す目的とともに、ハイランド地方で反乱をもくろんだ氏族への弾圧の目的がありました。
当時、ハイランドから追われた人々は、海岸沿いの入植地へ移住させられ、ニシン漁などの漁業、建築業、繊維業、蒸溜所などで働きました。
クライヌリッシュ蒸留所の創業者であるサザーランド公爵は、妻のエリザベスとともに、ハイランダー達に過酷な労働を強いた人物としても名を残しています。
ボトルの特徴とテイスティングレビュー
ボトルのラベルを飾る山猫は公爵家の紋章の一つでした。時代が変わった現在、なにかを意味するかのように山猫の絵はあまり可愛くありません。
その後、クライヌリッシュ蒸留所はブローラと改名して、1983年まで稼動していましたが現在は閉鎖中です。
現在、クライヌリッシュ蒸留所と名乗っているのは、1967年に隣の敷地に元とまったく同じ設計で建てられた施設。その後、経営権が移り、現在は先に述べたようにMHDモエヘネシーディアジオ社の傘下となっています。
「クライヌリッシュ」の度数は46度と高めで、700ml。価格は送料入れずに4,500円前後。並行輸入ならもうちょっと安いものもあります。
一般的な評価も高く、「ピート香は控えめで繊細な味。バランスがいい」「適度にウッディで甘い味わい。長く尾を引く余韻」「花の蜜のよう。飲み干した後のグラスからバニラが香る」「ロウソクを思わせるワクシーな香り。余韻も優しくほどよい感じ」とあります。
「ワクシー」の臭いに関しては、魅力的な香りとして受け入れられています。「ロウソクを思わせる」というレビューもありますが、ネガティブな意味ではなく、通好みでありながら万人受けするスコッチと言えるでしょう。
希少なシングルモルトウイスキーの14年がこの価格なら、ストックしておいて損はないですね。