ニッカカフェモルト・休売は事実上の終売?
「ニッカカフェモルト(Nikka Coffey Malt Whisky)」はニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所の持つ伝統的な「カフェ式連続式蒸溜機」でつくられたモルト原酒を熟成させたジャパニーズウイスキーです。
2014年1月にヨーロッパで先行販売され、同年6月に日本で発売されましたが、原酒不足のために「カフェグレーン」とともに2019年3月末で在庫がなくなり次第、休売と発表されました。
その後も再販は未定ということなので、ほぼ終売なのかもしれません。
ニッカカフェモルトの度数・定価と休売後の価格推移
ニッカカフェモルトのアルコール度数は45度で700ml。
販売しているアサヒビールによると、定価の目安となる参考小売価格が税別で6,000円。
この記事は2018年の9月中旬に一度紹介しましたが、このときは市場価格が定価よりもちょっと安い5,500円前後で購入できました。
休売後の価格推移は在庫が希少なため、記事アップ日の最安値でも13,000円ほどに高騰中です。
同じく終売の「ザ・ニッカ12年」と同じくらいの価格ですね。
ちなみに、ニッカカフェグレーンと2本で飲み比べセットを発売している販売店もあり、こちらは記事アップ日での価格が16,000円ほどなので、余裕があれば2本購入がお得です。
ニッカカフェモルトの価格とレビューの評価
ニッカカフェモルトの一般的な評価からまずはマイナス評価を指摘する感想をあげてみます。
「法外な値段」
マイナス評価は価格面だけですね(笑)。支持するレビューは以下の通りです。
「群を抜いて美味しいウィスキー。栓を開けて香りを嗅いだだけで幸せ」
「ウィスキーなのにワインのよう。同じニッカで宮城峡や伊達も飲みましたがコレとは別物」
「いつもと違うものを求めているなら試す価値がある」
「ニッカはいくつかの素晴らしい製品を持っている。ウイスキーやバーボンにも引けをとらない(イギリス)」
「リッチでレイヤードで甘い。美しくバランスの取れたウイスキー(イギリス)」
「非常に複雑で、多くのウイスキーの本が与える非常に高い評価に値する(イギリス)」
飲み方はまずストレートで甘みに重点を置いて楽しんだら、トワイスアップでフルーティーさが広がるのを楽しむといった方法が一般的ですね。
カフェグレーンよりこちらのほうが好みという人も多いですが、カフェグレーンまで手が伸びる方は在庫があるうちに飲み比べてみてください。
日本のウイスキーを試したことがない人でも気に入る逸品です。
カフェグレーンとの違いとは
カフェグレーンとの違いがわからないという方のために、ちょっと専門的な解説をしましょう。
カフェモルトの原料は大麦麦芽であり、カフェグレーンの原料は主にトウモロコシを原料としたものです。
グレーンウイスキーはブレンデッドウイスキーを造るときにモルトウイスキーの風味を引き立ててくれる存在です。
カフェというのは、ニッカ宮城峡蒸溜所にある「カフェ式連続式蒸溜機」という蒸溜機の名前なんですね。
ニッカカフェモルトの特徴
「ニッカカフェモルト」は本来グレーンウイスキーを造るマシンを使って、モルトウイスキーを造ったところに特徴があります。
醸造してもろみを作るまでは通常のモルトウイスキーと同じ製造工程ですが、蒸留だけをポットスチルではなくカフェ式連続式蒸溜機で行っているため、それが風味の違いと表れています。
この製造方法で造られたカフェモルトは世界でも希少です。
理由は原価の高い大麦麦芽を連続式蒸溜機で蒸溜するコスト、さらにカフェ式でモルトを蒸溜する場合はグレーンよりも大麦麦芽の発酵液の泡立ちが多くなり、熟練の技が必要とされるために手間がかかるんですね。
ちなみに、アイリッシュウイスキーの「グレンダロウ」もこのカフェ式で造られているグレーンウイスキーです。
カフェ式連続式蒸溜機とは
ニッカにつながる「カフェ式連続式蒸溜機」の歴史も解説しましょう。
ウイスキーの発祥はアイルランドに始まると言われます。アイルランド国内では18世紀後半にウイスキー製造業が始まりました。
当時は2000近くもの小規模な蒸留所があり、ポットスチルで蒸留が行われていました。
やがて、大量のスピリッツを効率的に生産できるスチルが求められるようになり、ウイスキー業界で産業革命が起きます。
それが連続式蒸溜機の登場。1826年にスコットランド人の蒸留業者ロバート・スタインが丸型タイプを開発します。
その5年後の1831年、アイルランドのイーニアス・コフィ(Aeneas Coffey)がそれを改良。カフェ式連続式蒸溜機を完成して、1831年に実用化しました。
コフィはアイルランドのダブリンで生まれ、有能な収税官として働いたのちに依願退職、ダブリンで小さな蒸留所の経営に乗り出した人物です。
連続的に大量に安価に蒸留できる画期的なスチルという評判から、蒸溜機は彼の名にあやかって「コフィ・スティル」と呼ばれます。
また、2塔からなる蒸溜機で特許(パテント)をとったため、パテントスチルとも呼ばれました。
ところが、このカフェ式蒸留機はアイルランド国内では評判が悪く、取り入れたのはウイスキー造りのライバルとして当時、台頭しはじめたスコットランド・ローランドの業者。
1840年にはパテントスティルを使って、穀類を原料にした新タイプのグレーンウイスキーが誕生します。
その13年後には、エディンバラの酒商人アンドリュー・アッシャーが、このグレーンウイスキーと従来のシングルモルト・ウイスキーを混ぜ合わせたブレンデッド・ウイスキーを開発するわけですね。
ブレンディッドウイスキー大量生産の時代へ
これを機にブレンディッドウイスキーがブームとなり、大量生産されるとスコッチは一気に世界へ輸出されるように。
いっぽうで、アイリッシュウイスキーは第一次世界大戦頃から徐々にスコッチにシェアを奪われ、禁酒法への対応ができず、蒸留所の閉鎖が相次いで衰退の時代を迎えました。
とはいえ、近年のウイスキーブームのなかで、ふたたびアイリッシュウイスキーの風味が見直されて人気となり、新しい蒸留所の建設ラッシュに沸いているのは明るいニュースですね。
その後、さまざまな連続式蒸溜機が開発されて、現代では数塔を併立して使う蒸留所も出ています。
カフェ式の特徴は、原料由来の香りや成分が残りやすいこと
このような時代の流れにあり、カフェ式は世界でも珍しい古典的な存在となっていますが、ニッカはあえてこの機種にこだわっています。
旧式のために蒸溜効率は劣りますが、「蒸溜液に原料由来の香りや成分が残る」と言われる特徴が重視され、ニッカウヰスキー創業者、竹鶴政孝氏の時代からずっと愛され、使われているわけです。
いまや、ほかではなかなかお目にかかれない、世界遺産のような「カフェ式連続式蒸溜機」。
開発者のイーニアス・コフィさんはもともとフランス生まれだとか。
先ほど紹介したなかに、「ウィスキーなのにワインのようだ」という評価もありました。
貯蔵したシェリー樽の影響が大きいとは思いますが、コフィさんが生み出した原酒の味にも関係があるのかもしれませんね。